日本のおもてなしの心

おもてなしの意味

おもてなしの意味を簡単に言えば「相手に敬意を持ち、対価を求めない心でもてなす」ということ。単純なものに聞こえてしまうかもしれませんが、実はおもてなしという言葉には興味深い語源が隠れているのです。

おもてなしの語源

おもてなしの語源とは?

そもそもおもてなしの語源は動詞の「もてなす」。この言葉が丁寧語となりおもてなしになりましたが、もてなす自体の意味は「モノを持って成し遂げる」ことです。

ここでのモノというのは、目に見える物体のモノ・見えない事象のモノの2つを指します。つまりは物や心のこと。

そして「モノ」を使い成し遂げることは「物や心を使い、お客様に対応する際の待遇・姿勢を良いものにする」ということです。この語源から、おもてなしの意味には「敬意を持ち接することで相手に満足してもらう」という意味も込められているそう。

「おもてなし」は「表なし」

おもてなしとは表なし裏なしの心であること

おもてなしは「表なし」が由来とも言われています。「表なし」というのは心のあり方を示すこと。そして心の表がないということは、心の裏側もないということに繋がります。つまり表裏のない心であなたをもてなすという意味。

この2つの語源から、おもてなしとは「人に敬意を持ち、対価を求めない心で相手を満足してもらえるように良い姿勢で接すること」になるのです。

おもてなしの歴史

茶道とともにおもてなしは広まった

「表なし」と「もてなす」からなる「おもてなし」は昔から日本に根強く残る文化ですが、いつおもてなしの文化は誕生したのでしょうか。

実はおもてなしの歴史は深く、言葉が知られていたのは平安時代のこと。なんと「源氏物語」で語られるほど昔から認知されていたのです。

またおもてなしは、茶道とも深い関わりがあるとも。茶道が平安時代から室町時代にかけて発展すると同時に、おもてなしの精神もまた広まったのです。

お客様を迎え、特別な作法や場が必要となる茶道。ここでは正しい振る舞いや態度、待遇が求められます。そしてその振る舞いこそがおもてなしのもとになりました。茶道の世界で活躍した「千利休」は、「利休七則(りきゅうしちそく)」というおもてなしの原則をまとめたのです。

そのお客様1人1人に合わせた最高の空間を提供することこそが、おもてなしであると考えた千利休。その精神は引き継がれ、現代のおもてなしの原点となりました。

おもてなしと混同しやすい言葉

おもてなしは、相手のために敬意を持ち心を込めてもてなすという日本特有の文化。しかし、もてなすという言葉には似た言葉がいくつか存在します。

マナー

人が不快にならないように行動するのがマナー

人が不快にならないように行動するのがマナー、特に似ているのはマナーやサービス、ホスピタリティという言葉。いったいおもてなしとどのような違いがあるのか解説します。

おもてなし

おもてなしにはまごころが必要

日本の接客でよく耳にする「おもてなし」。これは日本で生まれた特有の概念であり、まごころといった精神性や感性を重んじて裏表のない心で接客することを指します。

ホスピタリティと同様に、提供側と享受側は対等であり特徴は一緒。しかし、おもてなしというのは享受側も提供側のことを想い敬うことで、互いに心地良い時を過ごそうと心を尽くす違いがあります。

また、日本ならではの感性を生かし、五感と心に感動を与えようとすることが最大の特徴。この人、この時、この場のためだけに接客を行うという姿勢が大事になります。享受側もまた対等であるからこそ、その待遇に感謝し敬うことでより良い時間を過ごせるのです。

公共の場やさまざまな場面でよく使われる言葉「マナー」。語源はラテン語で手を意味する「manus(マヌス)」だと言われます。食事で手を使う際に、相手に不快感を与えないような気配りや作法を指すマヌスは、日本語では礼儀・作法・態度などと翻訳。

人間関係において最低限守るべき道徳や行儀と認識されているため、心遣いからなる行動ではなく義務的なものとされています。食事のマナーや交通のマナーなど使われることがほとんど。

サービス

ブランケットを渡すサービス

お店で購買する際によく耳にする「サービス」。この言葉を聞くとお得感が得られることが多いと思いますが、語源はラテン語の「servitus(セルヴィタス)」。奴隷と訳されます。サービスは日本語で奉仕・従事と翻訳され、お客様を主体として接客を行うという意味合いに。

お客様や相手に従事し提供する側と受ける側にはっきり別れており、対価が発生します。そしていつでも誰でも受けることができることが特徴的。

ホスピタリティ

ホテルなどで大事にされているホスピタリティ

手厚い接待が行われる場面で使われる「ホスピタリティ」。語源はラテン語で「hospes(ホスピス)」であり、保護するという認識がされています。おもてなしは英語にするとホスピタリティとよく訳されますが、実際は少し別物。

対してホスピタリティを日本語に訳すと思いやりや心遣いになり、お客様に対して心地の良いサービスを提供するという意味合いになります。

他者に対しての労りがありますが、提供する側と享受する側が対等であることが特徴的です。サービスは明らかに関係が対等ではありませんが、ホスピタリティは対等かつ最高の空間を提供するもの。対価を求めず相手が心地よく過ごせるように、自発的に動くことです。

なかなかおもてなしとの違いが難しく混乱してしまう人も。

おもてなしをするために

おもてなしは心を込めて接客することですが、具体的にはどのようなことをすれば、おもてなしと言えるのでしょうか。ここではおもてなしに必要な要素や心構えを紹介します。

対価を求めない心で接するおもてなし

まず必要になるのは対価を求めない心。海外旅行でサービスに対してチップを払った経験がある人もいるのではないでしょうか。一般的に海外でのサービスにはチップという対価が発生しますが、日本にはそういった文化がほとんどありません。

そのため海外の人が日本へ来た際に、チップの文化がないのにも関わらずサービスの質が高いことに驚く人も。これは日本の文化に、対価を求めないおもてなし精神が根付いているためです。

対価がなくとも心を込めた丁寧で質の高い時間を提供する。これこそがおもてなしの第一歩になります。

おもてなしには想像を超える気遣いが大切

おもてなしは感動を与えなければならない側面もあります。その際に必要なことは想像を超えた気遣い。

享受側に快適な時間を過ごしてもらうために、相手がどんなことを求めているのか、何をしたら喜んでもらえるか、そういった相手のために考える時間が必要です。

そうした時間で「自分には何ができるか」と考え、想像を超えた気遣いとも言える心配りこそが最高のおもてなしに。私たちが受けるおもてなしもこうした心配りや時間の末生まれているものなので、これから改めて感謝を伝えることができたら素敵ですね。

海外のおもてなし?

東京オリンピックが決定したIOC総会。その直前に「OMOTENASHI」のプレゼンテーションを行ったこともあり人気になりつつあるおもてなし。特に「日本のおもてなしを世界のOMOTENASHIへ」を合言葉に、日本が世界を対象に情報発信していることも重なり、近いうちに各国へ浸透することが実現すると想定されます。

そんな日本のおもてなしは相手を第一に考え行動することが挙げられますが、他の国もおもてなしと似た文化があるのです。ここではその一部を紹介します。

茶道

その時、その人のために行うおもてなし

もともと茶道とともに生まれたと言っても過言ではないおもてなし。茶道で最も有名な千利休が残した利休七則で、おもてなしを学ぶことができます。

例文として、利休七則の1つにある「茶は服のよきように点て(たて)」。これは「相手が飲みやすいような温度や量にすること」という意味です。つまり、その場のその人だけに適切で心のこもった接客を行うということ。

相手が喉が乾いているなら少し多めに、熱いものが苦手なら少しぬるめにというように、相手のことを考えて対応する立派なおもてなしです。

旅館やホテル

日本の旅館やホテルでは特におもてなしの文化が見られます。

旅館やホテルを訪れた際に言われる「いらっしゃいませ」はサービスの一環。しかしそこに加えて「いらっしゃいませ。暑い中お疲れでしょう。こちらで少しおかけになってください。」と言われ冷たいお茶を出されたらどうでしょう。

訪れたお客様のことを考え、今欲しいものや疲労を考え行動する様子はまさにおもてなし。

また、アレルギーで食べられないものをあらかじめ伝えていると、代わりの旬なものなどで別のものを出してくれることがあります。一部の食品が食べられないとしても、少しでも楽しんでもらうために旬のものを用意すること、あらかじめキッチンや配膳する人に共有してお客様のために提供することはまさに心配り。素敵なおもてなしです。

提供される和食にも細かな気遣いがあるー毘沙門レストランー